私は普段大学病院分院の小児科で臨床医をしております。
小児科医師としてカルシウム、リン代謝異常は非常に重要な疾患ですが、今でもどこかで少し苦手な感じがあります。それはやはり国家試験の勉強の時も何となく覚えきるのが難しい分野だったなーという思いが残っていることも影響しているかもしれません。
カルシウム、リンは哺乳類にとって生まれた直後から重要な栄養素です。
特に新生児領域では最近積極的にカルシウムとリンの栄養素について議論されております。
けいれんの原因がカルシウム値の異常だったなんてことも経験しますし、小児科では低身長の鑑別として『くる病』を考慮する必要があります。
医師国家試験の分野の中で苦手な方が多いカルシウム、リンについてまとめていきましょう。
医師国家試験カルシウム、リン問題復習
医師国家試験でも1年間に1問ほど出ています。
114A6
甲状腺全摘術後に発症したテタニーに対し、直ちに投与すべきなのはどれか。
a 抗甲状腺薬b 抗けいれん薬c カルシウム製剤d ビスホスホネート製剤e 活性型ビタミンD製剤
意外と正答率70%程度みたいです。eと迷った方が多かったのでしょうか。 答え c
113A36
42歳の男性。空腹時の意識障害を主訴に来院した。30歳ころから空腹時に意識が遠くなる感覚があり、ジュースや飴などを摂取して症状が改善することを経験していた。内視鏡検査前の絶食時に意識消失発作を生じたため血液検査を受け、低血糖(46mg/dL)が判明した。母親に尿路結石破砕術歴、母方祖母に下垂体腺腫の手術歴がある。身長170cm、体重89kg。脈拍88/分、整。血圧140/92mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。左腰背部に叩打痛を認める。血液生化学所見:総蛋白8.2g/dL、アルブミン4.4g/dL、AST 42U/L、 ALT 62U/L、尿素窒素19mg/dL、クレアチニン0.9mg/dL、Na 142mEq/L、K 4.2mEq/L、Cl 102mEq/L、Ca 13.2mg/dL、P 2.3mg/dL、空腹時血糖54mg/dL。インスリン421U/L(基準17以下)。
診断のために有用でないのはどれか。
a 腹部造影CT b 頸部超音波検査 c 下垂体造影MRI d 血中カテコラミン測定 e 血中下垂体前葉ホルモン測定
MENがらみで出ることもありますね。これがさらに覚えないといけない情報量を増やしていまします。MENについては第2回でまとめます。
111B25
血液中の副甲状腺ホルモン〈PTH〉とカルシウムが同方向に変化(両方とも増加、または、両方とも減少)するのはどれか。
a 腫瘍性液性因子性高カルシウム血症〈HHM〉b 特発性副甲状腺機能低下症c 偽性副甲状腺機能低下症d ビタミンD欠乏症e 慢性腎不全
『特発性』『偽性』の定義さえ覚えておけば、答えを導くのはそこまで難しくないですが、e慢性腎不全でカルシウム代謝がどうなるかをしっかり説明できるようにしておきましょう。
109D19
血清Ca値と血清P値とが反対方向に変化(一方が上昇し他方が低下)する疾患はどれか。2つ選べ。
a 慢性腎不全b 甲状腺髄様癌c ビタミンD欠乏症d 特発性副甲状腺機能低下症e 腫瘍性低リン血症性骨軟化症
これも腎不全時のカルシウム、リン代謝を覚えておかねばならない問題です。
それではまずは
ホルモン動態とカルシウムとリンの関係
腎での排泄について復習していきましょう。
CKD-MBD(慢性腎臓病と骨代謝異常)というワードがあるくらいカルシウム・リン代謝と腎臓は切っても切れない関係にあることを押さえましょう。
そもそもカルシウムとは?
人体に最も多く含まれるミネラルであり、骨や歯を形成しています。
カルシウムイオンとして血液・筋肉・神経内にあり、血液の凝固を促す作用を呈するほか、心筋の収縮作用を増し、筋肉の興奮性を抑える働きもあります。
乳製品などで積極的に摂取せねば不足しがちなホルモンです。
リンとは?
85%は骨や歯にリン酸カルシウム・リン酸マグネシウムとして存在しています。骨中ではカルシウムやマグネシウムと結合しているのですね。そのため骨吸収時はカルシウムと一緒に血中に出てきます。
15%は、たんぱく質や脂質と結合し、細胞膜や核酸の構成要素として体内の細胞に存在するほか、ATPの構成成分ともなっています。
また細胞のpHバランスや浸透圧を保つ働きをするなど、体内でのいろいろな働きに関わっています。
食品添加物に多く使用されており、インスタント食品や加工食品の利用により過剰摂取になりがちなことがあります。
イメージとしては
過剰になりがちなリン、不足しがちなカルシウムというイメージです。
PTH(パラトルモン)、活性型ビタミンDのついて復習
カルシウム、リン代謝で関わるホルモンパラトルモンと活性型ビタミンDについて。
○PTH
副甲状腺から分泌される。血中カルシウムの値で増減する。
イメージとしては
骨からカルシウムとリンを血中に移動させる
尿からカルシウムが逃げないように、尿からリンを出すように動く。
活性型ビタミンDの産生を促進する。
① 骨からカルシウムとリンを排出する。
② 遠位尿細管でカルシウム再吸収
③ 近位尿細管でリンの再吸収抑制→尿からのリンの分泌量を増やす
④ 近位尿細管でHCO3ーの再吸収抑制
⑤ 近位尿細管で活性型ビタミンD産生
○活性型ビタミンD
近位尿細管で産生される。
腸管からのカルシウムとリンの吸収促進
尿からカルシウムが逃げないようにする。
① 腸管からのカルシウムとリンの吸収を高める。
② 腎臓からのカルシウム排泄を抑制する。
PTHで分泌促進、高P血症で分泌抑制されます。
CKD-MBD
慢性腎不全と骨代謝疾患について、上記情報から整理しましょう。
カルシウムは遠位尿細管でパラトルモンの作用により再吸収が促進されるのでした。
なので遠位尿細管機能が落ちる慢性腎不全では低カルシウム血症になりそうですね。
活性型ビタミンDの産生もなくなることを考えるとさらに低カルシウム血症になりそうです。
リンは世の中の食べ物に入りすぎており、腎臓で再吸収抑制の方向に動くのでした。ですから慢性腎不全では高リン血症になりそうです。
ここで理解を高めるために
FGF23というリン利尿ホルモンを理解しましょう。
作用としては
① リン利尿促進→(近位尿細管でのリン再吸収抑制の抑制)
② 活性型ビタミンD産生抑制
があります。
慢性腎不全の初期にはFGF23分泌が亢進してリンの分泌を促進しているのですが、それが破綻することで高リン血症、活性型ビタミンD低値になってしまいます。ちなみにフィードバックでPTHは上昇することが多いです。
以上の知識をまとめると医師国家試験111B25、109D19がすんなり解けるようになりますね。
医師国家試験で頻出のカルシウム、リンまとめ
不足しがちなカルシウム、過剰摂取しがちなリン
PTHは骨からカルシウム、リンを血中に出す
尿中からカルシウムを出さないように、リンを出すように
活性型ビタミンDは腸管からカルシウム、リンを吸収
尿中からのリンの分泌促進
CKD-MBD FGF 23の作用の減弱し、高リン血症、低カルシウム血症になる。
活性型ビタミンDの産生もへる。
第2回で各論を見て行きましょう!!
コメント