医師国家試験のための新生児分野対策 ①

私は大学病院で小児科勤務医をしながら、医学部4、5年生を相手に教育担当をしております。また副業として医師国家試験対策予備校で講師としてオンライン授業を行っております。
この厳しい世の中で医師国家試験合格を目指す全ての医学部生を応援しております。
小児科分野を少しでも得意分野にして欲しいという思いがあり、記事を書いております。

最新の114回医師国家試験を解いて感じたことは新生児疾患に対する臨床的な知識が重要になっているなということです。これは臨床をよく反映しており、新生児領域はこれからますます重要になって来るはずです。理由は高齢出産が増え、出生数の割に早産、低出生などリスクのある出産が増え、しかもその新生児を後遺症なく大人まで育てられるかが重要になるからです。
今回は111回以降の国家試験で新生児疾患として出題歴のある分野を中心に、臨床風景を交えながら説明できればと考えています。

新生児疾患 国家試験頻出分野

114回 医師国家試験
小児科分野 27問 
そのうち新生児が絡む問題 6問 A3 A28 A56 E27 F30 F53

113回 医師国家試験
小児科分野 18問
そのうち新生児が絡む問題 5問 A32 B10 C34 D12 F59

112回 医師国家試験
小児科分野 26問
そのうち新生児が絡む問題 7問 C33 D26 D38 D42 F10 F43 F57

111回 医師国家試験
小児科分野 27問
そのうち新生児が絡む問題 10問 B10 B29 B32 D9 E43 E54 E58 G45 G53 I75

それなりの問題数が出ていますね。現状としては「新生児領域」として集中的に勉強することはあまりない方が多いのではないでしょうか。学生実習でも新生児疾患をしっかり学べる大学病院と学べない病院で正直差が激しいと考えます(私はほとんど学生時代新生児を意識して勉強した記憶はありませんし、学生実習で新生児の勉強した覚えはありません。)

以下、まずは頻出疾患を抑えていきましょう。

参考文献として私自身NICUで研修していた時のバイブルであった
新生児学入門 第4版 医学書院 仁志田 博司著を使います。

最近は
新生児学入門 第5版 も出版されました。

この本は余裕のある学生、周産期医療に興味のある学生、周産期で研修する研修医にも非常にお勧めです。

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胎児循環

医学部1-2年生の解剖の時に丸暗記した方が多いのではないでしょうか。
新生児にあって成人にない構造物として
①臍帯静脈 ②静脈管 ③卵円孔 ④動脈管 ⑤臍帯動脈
があります。(この順に覚えるとセンスが良いでしょう。)

ここで質問です。
Q 胎児循環では右室駆出量の何%が肺に流れるのでしょう?

A 10%です。
右室から駆出される肺動脈は動脈管を通って大動脈に流入します。動脈管は左の肺動脈から流出した後、大動脈弓の3本の分岐が出た後に大動脈へ流入する構造になっております。このことは脳に酸素分圧の高い血液を送り出すことに寄与しております。
動脈管があることで、肺の成長よりもまずは、脳の成長、腹腔内臓器の成長を促していることになります。

Q 出生後に新生児科医が一番気にしている胎児循環に関わる構造物は何でしょう?

A 動脈管です。

出生後、オギャーと第一啼泣があれば、肺の血管床が広がり、肺動脈が流れるようになります。
動脈管は、動脈管を流れる血流の酸素分圧が上がることで収縮していきます。
(新生児科医は、動脈管を流れる血流の向き(右左シャントなのか左右シャントなのか)、動脈管の血流が減っているか、閉じているかを出生後数日エコーで確認しているのです。)
動脈管が閉じることで、腎臓や腸管を流れる血流が増え、尿量も増えていきますし、腸の蠕動運動も増えて、消化が行われるようになります。体循環の確立のためにも動脈管がしっかり閉じることが重要なのです。
ちなみに動脈管を閉じる薬は『インドメタシン』、動脈管を開いておく薬は『プロスタグランジン』です。(オープンのプで覚えています。)

新生児呼吸窮迫症候群

新生児科にとってもっとも気になることはその児が妊娠何週で出生となるのですか?ということです。
理由はただ1つ、胎内でサーファクタントの分泌がされているかがその児の呼吸の確率に重要だからです。サーファクタントはⅡ型肺胞細胞から妊娠34週ごろから分泌されます。
そのサーファクタントが不足し、呼吸状態が確立しないと新生児呼吸窮迫症候群=RDSになります。
治療は気管内挿管して、サーファクタントを人工的に肺内に投与します。
34週より前に出産になるか、34週以降に出産になるか、その児の呼吸のポテンシャルにとって非常に重要なのです。
小児科医の駆け出しの時期はまずは1人でRDSの治療ができるかが重要となります。

胎便吸引症候群

一転して正期産ー過期産に多い疾患です。新生児学入門にも正期産児に多く発症するとの記載があります。早産児では鑑別として考える必要はありません。
胎児が母胎内で低酸素状態になると羊水中に胎便を排泄し、またあえぎ呼吸がおこるので、子宮内あるいは出生後第一呼吸で気道内に、胎便を吸引してしまい発症します。胎便は無菌ですが粘稠度が高いので気道に詰まりやすいです。
新生児遷延性肺高血圧症を合併することがあります。
日常診療でも、出生直後に口腔内に粘稠の胎便が詰まっており、気管内吸引しても口腔内、気管内の閉塞が解除できない時は呼吸状態が確立しないことがあり、少し焦ります。

新生児一過性多呼吸

新生児の呼吸障害ではもっとも頻度が高い。新生児肺炎、新生児呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、気胸等を否定した後に診断できます。病態としては出生児に肺水の吸収がうまくいかないことでおこるとされております。臨床的には出生後の呼吸障害にフロセミドを使用することがあります。

それでは国試の問題を確認して見ましょう

111I75

出生直後の新生児。早産児のためにNICUに入院した。母親は前期破水のため2日前から入院していた。在胎26週、出生体重980gで経膣分娩で出生した。Apgarスコアは4点(1分)。体温37.3℃。心拍数160/分、整。呼吸数50/分。SpO2 90%(哺育器内の酸素濃度30%)。大泉門は平坦。呻吟と肋間腔の陥没とを認める。
考えられる疾患はどれか。2つ選べ
a 先天性肺炎b 呼吸窮迫症候群c 胎便吸引症候群d 新生児一過性多呼吸e Wilson-Mikity症候群

まず在胎26週の時点でcを削り、bは選びましょう。臨床的には26週出生の時点で生まれる前にサーファクタントと呼吸器は準備しておきます。(当直で当たるとヒヤヒヤもんです、、、)前期破水があると感染症のリスクは上がりますので、a先天性肺炎も考慮せねばなりません。(先天性肺炎という疾患名はあまり使わないような、、、)

正答率33%、先天性肺炎という聞き馴染みのない疾患名があったことから正答率が下がったのでしょう。

まずは新生児の循環、呼吸を中心にみてみました。新生児、人生の入り口であり、もっともストレスがかかり劇的な変化が見られる時期です。まっさらな状態(基礎疾患等の情報がない状態)から診療を開始できることも魅力の1つです。小児科をかじる端くれとして少しでも新生児科の魅力を伝えられればいいなと思います。

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